ほめているのに効果が出ない職場とは
普段同僚や部下に対してほめていますか?
最近は教育やビジネスの現場においても、ガンガン叱咤激励するよりも、ほめて伸ばす、ほめて育てることが主流になってきています。
読んでいる方ご自身も、叱られるよりもほめられたいと思うのではないでしょうか。
この「ほめて育つ」理論、実は効果を出すためには一定の条件が必要なことはご存じですか。
意識してほめているのになぁ、とお悩みの方、または部下をほめて育てたい方は是非ご参考ください。
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「ほめ」の効果
ほめるのと叱るのとではどちらが組織として効果があるのか、という問題には数多くの研究がなされてきました。
これらの研究結果を見てみると、叱るよりもほめる方がモチベーションなど各種のポジティブな心理的・行動的反応が出ることがわかっています。
例えば、ほめられた人は、受けた指摘に関して「的確だ」「役に立つ」と評価しその指摘を受け入れやすくなります。その結果、肯定的な自己イメージや自己効力感が高まります。
さらには組織に対する愛着がわき、役割外の仕事や創造的な活動に積極的に取り組む姿勢も見られるようになります。
脳科学の分野から「ほめ」の効果にアプローチしている興味深い研究もあります。
どんなときに脳が活性化するかを測る機器をつけ、いくつかの実験をしました。
ある行為に対して報酬としてお金がもらえる状況の被験者と、ある行為に対して他者からほめられる状況の被験者の脳の状態を調べました。
この結果、金銭報酬がもらえるときに活発になる脳の部位が、他者からほめられたときにも同様に反応していることが明らかになりました。つまり、他者からほめられることは、お金をもらったときとおなじく喜びをもたらしていたということです。
ほめることが効果を出すために必要な2つの条件
次の実験はどんな場合にほめることの効果が出るのかの検証です。
職場をシミューレーションして、初対面の上司と部下とで仕事をしてもらいます。
仕事内容はかかってきた問合せの電話に対応する業務です。
部下役として集められた学生たちは、
「目の前にいる初対面の上司とこれから一緒に仕事をすることになる」と説明を受けます。
この学生たちは2つのグループに分けられ、業務前にそれぞれ異なる条件を与えられました。
グループAには10分間、上司と部下で交流をしてもらいます。内容はごく普通の日常的な会話です。
グループBでは、上司には目の前のパソコンで忙しそうに仕事をするなどして会話がしにくい状況をつくりました。
10分間の上司-部下の交流を終えると、部下役の学生には以下の作業目標を持ってもらいました。
一つは、マニュアル遵守でミスを避け安全確保を強く意識した電話対応をするようにと伝え(基本目標)、
もう一つは、問い合わせた客に配慮してわかりやすい説明を心がけ、質向上に向けて工夫ある対応をする(工夫目標)ようにと伝えました。
いよいよ業務が開始し、部下が対応している間上司はそばにいます。
[ほめ条件]では上司はひと言ポジティブなフィードバックをします。
[ほめなし条件]では、上司は特に何も言わないままです。
さて、実験の結果です。
ほめることはポジティブな効果をもたらすのか?
答えは、「ほめることに効果あり」でしたが、条件を満たさなければ効果が得られないことがわかりました。
1.ほめどころ
部下のモチベーションを高めたのは、上司がほめどころをほめたときでした。工夫目標を指示された部下たちに上司が「工夫していて良いね!」とほめると次の仕事も手を抜かずに努めようという意識が高まりました。
一方、基本目標を指示された部下たちは、上司から「工夫していて良かったよ!」と言われてもモチベーションの得点は変動しませんでした。ほめる言葉が飛び交っていても、自分の注力している・意識している作業とずれたほめ言葉はあまり響かないようなのです。
2.良好な人間関係
部下のモチベーションを高めたのは、「上司との人間関係」が良好な状態のときでした。
この実験においては、たった10分間日常会話を行っただけの人間関係でしたが、ほめ言葉のポジティブな効果は良好な人間関係が築かれているとき限定で発揮されたのです。
逆に、上司と部下で交流が行われなかったグループでは、
同じ言葉でほめたにも関わらず、部下のモチベーションは低下していきました。
つまり、そもそもの人間関係が整っていないところでほめても、
ポジティブな効果が出ないどころか効果が下がることすらありうるのです。
人間関係のしっかりとした土壌がないところでどんなに美辞麗句を並べても、相手の心には響かないということが如実に判明した実験でした。
ほめる前に大事なこと
ほめることでポジティブな効果が生まれることは多くの実験でわかってきています。
だからといってやたらにほめていれば良いということでもありません。
注力していること、目標値は何かを共有し、がんばりどころにたいしてほめているのか、
共有のために日頃からコミュニケーションが取れているのかが効果に大きな影響を与えます。
コミュニケーションにしても、業務に関する数値・売上に終始するだけではなく、業務前や仕事の合間にちょっとした雑談や質問ができる空気を作り出すのは上司の役目といえるでしょう。
近年、多くの企業で取り入れられている1on1ミーティングにしても、
特に話すことはない、ではなく、いかに雑談を気軽にできる人間関係を構築するか、そんな視点で取り組んでみると、上司側としても部下側としても1on1の時間を有意義にすることができるのではないでしょうか。